まず初めに落ちてきたのは天竺に生息すると聞く象のような巨大な巨大な岩石の群れ。
演習目的地は二つ山を越えた山岳地と足早に左右を大きな切り崩された自然の岩壁の間を突き進んでいたらコロコロと小さな石のクズが落ちてきたのが合図だった。
「なあ、変な音がしないか」
「へ?」
間抜けな声をあげて上を見上げた伊作の声が悲鳴に変わるが俺も叫んでた。
先頭を走っていた俺自身も大慌てで飛びずさり間一髪だった。地響きが収まると、そのうちあっはっは、と死ぬかどうかの危機に二人顔を見合わせつい笑うしかなかった。
…正直言うとちょっとチビってた。



道を塞がれ近道をしようと橋を渡ろうとすれば何やら木の橋の隙間に肥えた野ウサギが挟まり抜けなくなり息絶えたのか殺されたのか、群がるように獣とハゲ鷲どもの集団が集まっている。まさに弱肉強食の死闘を繰り広げていた。血の匂いに誘われ何匹も森の間から現れる。
木とアケビの蔓で作られた老朽化かしている橋が揺れ、餌にありつけていなかったのか殺気立たせ、今飛び出たら標的がコチラに変わりそうだねえなん隣で能天気なこと言ってるが洒落になんねえ。次第にグラグラと橋が揺れブチッときたもんだ。
ハゲ鷲の首元に噛みついていた野犬が下に消える。
「あ、落ちた」
そうだ、あっさり落ちた。ボチャンと小気味いい音をたてて数十メートル下の激流に流されていった。慌てて橋の袂まで行くとこの炉順はあきらめるしかないらしい。
ハゲ鷲がぐるぐると周り残りの野犬が向こう岸から吠えている。
こっち見んな。



迂回して森の中を進むことにした。この付近は春ごろになればオオシマサクラなどの花が美しく咲き誇る群衆地帯。
もう、この時期じゃあ桜から果実がなっているころだねえ、少し桜の皮は漢方になるから少しだけ、もうちょっと群衆のほうにいいかなあなんて言うから。
分かってる、これは自業自得だ。俺たちが馬鹿だった。青々と茂る葉の上から枝から毛を体中に装備したゲジゲジが降ってきた。
「ぎゃああああああああああ!!!」
「食満ぁああ!!!やばくないかココ!!!!」
背中に二匹。マジこいつぁいてえ。モゾモゾする、その度にチクチクジンジンしやがる。伊作の頭巾の中にうぞうぞと移動しようとする毛虫を勢いよくはたくと横っつらごとは力いっぱいはたいてしまった。
生身の手で毛虫をはたいたおかげで俺の手も痛かった。腕を大きくふったおかげで勢いもあったが背中にいた毛虫も服に押されて潰れた。大急ぎで退散。
一休みしながらブツブツ手に刺さった虫の棘を抜いてもらったが痛いし痒いし膨らみ赤くなっている。
「ほら、次背中見せて」
おもいっきりはたいてしまったせいかちょっと怒っているようだが気付かないふりをして着物をガバッと脱ぐ。着物には虫の1、2…3匹もいやがった。死骸と汁がくっつきいやあな汁っぽいような青臭いような着物はもう洗うまで着れまい。
「ゲッ」
「えっどうした、何かやばい?」
「・・・」
「おい」
結局毛虫が背中にはりついているのを合わせ四匹だった。伊作曰く、俺の背中は今真っ赤に腫れあがり「留、見えなくて良かったね」だそうだ。
寄り道をして散々だったが幸い怪我の手当と応急処置に長けているコイツが相棒だったことは良かった。と、ナナメに考えず前向きにいくのが男ってもんだろ。



終いに自分自身が落ちてきやがった。崖を登りあがるのに念のために一番丈夫そうな、太い年配の木を選んだら爺さんだった。かけた縄を昇り上げている途中に根っこごとズボッと。降ってくる幹より先に落ちた瞬間にもう人間技を離れたような速さで後ろ回りでゴロゴロと転がった。ズシンとあたり大木の音が響き九死に一生。
まったくコイツと組んでいるといくつ命があっても足りやしない事ばかりが起きる。コイツ俺がいなければ今頃おっちんでるんじゃないか。

そんな、何で伊作とそこまでして組んでいるかって?
ま、余計なことはあるが任務の成功率は実はかなり高い。それに運は悪いが根は良すぎるくらいの奴だ。今回だってそうだ、崩れた岩壁で遅延だけでなく脱落者も出たし、結局は橋を渡れた者も野犬と飢えた獣どもと格闘するはめになったりだったのだから。
文次郎の野郎が右ケツが痛いとデカイ日本の歯型らしきを見つけ狂犬病ではないかと仙蔵に囁かれ青ざめていたっけか。腰の内側に下げていたクナイが刺さっただけだと往診した伊作が言っていたが。アホウめ。
それでも一緒にいることで命は代えられないっちゃ代えられれないかもしれん。だけど傍にいりゃあ助かることだってお互いにあるだろ。答えになっちゃいないか。





野暮なことは聞くんじゃねえ。