バチバチと真っ直ぐに、強く、一向に止みもせず振り続ける大粒の雨に何かするにも気を殺がれていた。朝厠に行こうと目覚めてからジメジメと不愉快だ。
そのうえ長屋の同室者は不愉快指数を軽々とぶっちぎってくれる、あのうんざりするほどの、黒くて長い長い髪を束ねもせずに嫌でも目に映るその暑苦しい後ろ姿に指数は鰻上りにかけ昇る。
その相棒は相棒で、貴様の見苦しくも隅に置かれ芽の生えてきていた泥にまみれたままの芋の田舎煮を煮詰めて焦がしたようなツラがいるだけで、と独り言を聞こえるように、ああ、コチラは向くんじゃないとチラリとも振り向かずに嫌味だけは向けてくるものだからウンザリもする。
口を開いて言い返そうなどとしようものならば、その常日頃から苦虫を噛み潰しているようなシケたツラなのだから苦虫でも飛びださせるのではないかと口を閉めろとやれ噤めやら、どアチラも相当に湿気とで苛立っている。
なんせ湿った空気で蒸されるように暑い。時折吹く風も生ぬるく息苦しい。
狭い部屋に男二人なのだ早々に口では勝てた試しなどないのだからとはいえ訓練などとさすがにやる気もせんと廊下を渡っているようにこの通り追い出されていた。
学園内と言えば最上級生を除きまだ長期休暇の真っただ中である。
帳簿計算も毎度誰よりも早く出来上がるのにイマイチ爪の甘い口だけは達者なのと態度も良くシッカリしているようでいっそ職人技とでも言えるミミズ文字を描くあの一年坊達も、コツコツと仕事をこないすものイマイチ要領の悪いあの三年生も、普段は声高く煩く火器をぶっ放し騒ぐが自分の前では何とか先輩をたてようとはする四年生も皆いない。
委員会活動と称し、どつきまわすことも出来ずよくもまあ飽きもせず単調にしてくる雨音と自分の廊下を歩く足音だけが聞こえる程度だ。
学園の各教室を行き来する廊下は吹き曝しではあるが廊下の屋根は外に伸びており、時折かすめる温い風も床まで雨水を運びこませる程度ではない。
暴風雨が襲う時は庭の葉だけでなく門の外から飛ばされてきた草木まで飛び込み雨がやみ乾いた頃にベッタリ張りつく。
あれは葉が壁にまで張り付いていると剥がしにくく、沁みが取りにくいのだ。それに比べれば下級生がいないのだから自ずと掃除は自分たちに回ることを考えればまだマシか。
しばし歩きながらも部屋に戻るのも癪であるし湿気の少ない場所などさほどどこも変わりはないが、腰を降ろしたい。
出来れば横にでもなれればなおいい。

「なんだ、貴様いたのか」

半開きになっていた引き戸を覗き込むと、すり潰された植物の油や動物性脂肪の臭いがする部屋で一人、小鉢の中身をすりこぎで混ぜ抱えている姿がった。
「文次郎か珍しいねこんな所に」
小鉢を回す手を止めずに、こちらに顔を向けて目線を上げてくる。普段は乾燥した薬草や消毒用のアルコール臭がする部屋の匂いに混ざり、外にも微かに漏れているこの蝋のような匂いの元はその小鉢の中の調合されいるものから発されているようだ。
「この天気で仙蔵の虫の居所が悪くてな、長屋を追い出された」
既に最初、図書館に向かったが長次がこの長期休暇を使い書籍や巻物の整理をしその横で何ともデカイ鼾を響かせながら小平太が本に囲まれるように居眠りをしていた。
まるでデカイ犬のように丸まっていた。比較的にだが、図書館は本がシケって傷みが進んだりせぬように、医務室も病人を寝泊まりさせる時や薬剤を保管する為に風通し良く、忍たま長屋からも離れた位置にそれぞれ作られている。
しかし既に図書館は轟音のような鼾に加え棚から下ろされた本と一緒に降ろされた埃が舞立ちこもり掃除をする長次を後ろに医務室へと逃げてきた。
「今、外傷用の薬剤を作っているから臭うんだけどごめんね」
「かまわん、小平太の爆音攻撃に比べたら気にならねえよ」
よくもあの中で長次も淡々と掃除に整頓ができるものだが六年間も相部屋であれば慣れと言うものなのだろうか。自分であれば深淵の眠りについていたとしても銅鑼を耳元で叩き付けられたように飛び起きる。
まさに眠りながらも人間兵器みたいな野郎だ。
「しかし脂っこい臭いはするけどな」
「ガマの油だよ、止血にもなるし演習が多かったから底がついちゃっててさ」
「ヒキガエルの臭いか」
きょとんと顔をさせてから、ああと笑いながら
「違う違う、これは馬の油で作ったものだけどガマの穂で作るからガマの油。ヒキガエルをそのまま潰したんじゃ毒が回ってしまうよ」
へえと生返事を返しながら奥の御座の上に横になった。

何もせずとも背中が汗ばんでくる。

一日中と動いていたわけではないものだから疲れてもおらず、頭が冴え寝付けるわけがない。肘に乗せていた頭の上を人が跨ぐ気配に薄く眼を開き首を向けると、背後の百味箪笥から笹の葉とツルを引き出そうとする伊作が映る。
顔は見えないが癖のある細く柔らかな髪がかけられた耳と、なだらかな顎のライン。それをチラリと見える鎖骨に繋ぐ細い首。
膝立ちしているスラリとした生白い足。
つい、その後ろ姿に腕を伸ばし着物を絞める帯を掴み、引き寄せ、腰に腕を回した。急に引き寄せられ驚いているとこを回した腕で隙間から手を差し入れ手に吸いつくような肌を撫でた。
「夕暮れ時といえどうかしてるんじゃないか」
撫でていた手首を掴み引き抜かされる。
その払った手首を掴み返し薬棚に後ろから押さえつけ薄い着物の上から胸を腰を辿り帯の下、その合わせ目の隙間から指をしのばせる。するりとした腿の内側を撫で上げてやると体が強ばる感触がした。
下着にたどり着き上から触れた時に、やっとこちらに首を回し明確に拒否の反応を示した顔を向けた。
「・・・文次郎、調子に乗るな」
「こんな空じゃ関係ないだろ」
「その話は終わってる、蒸し熱いのは私だって同じなんだ」
「だから紛らわせようってんだろうが」
入りこませたままの手で強く伊作のものを握りこねると何か言い掛けた口が急に息を吸い込む。
右手に抱えていた薬壷を落としたためにゴトンと床が鳴る。棚に縫い付けられた左手を自由にしようと押さえる手を剥がそうとしてきたが腕で両手ごと押さえつけた。
同い年だが体格に力の差ははっきりとしている。容易い事だ。強くかき揉むと、抑えつけられた腕の間の茶色い髪が震えるようにうつむいていた。
徐々に緩く包むようにやわやわと続けると木綿の布地の中から濡れてきているのがわかった。
「いいだろ」
嫌とは言わせない、元より言わせるつもりはない。
伊作の芯を持ち始めた形をまた強く握り込む。緩んできたとこに手をもぐり込ませ、直に触れたためかヒュウッと空気を切るように吸い込む音が伊作の唇から漏れた。耳から首筋までが赤く色づいている。
顔を覗き込もうとすると更に体を強張らせ腕の間の顔は目を固く閉じ上の歯で下唇を噛みしめていた。どうやら嫌とは言わないが肯定すらもしないつもりと決めたらしい。
面白くない。目が自然と細まる。腰布を解かせて強引に前を弄りしつこくしつこく、しつように根元からくびれた部分を強弱つけかき続ける。
立ち上がり固くなってきた頃、既に力が抜け自分では体を支えられないのか、頭を箪笥に押し付け唇を食いしばり洩れる声を抑えるだけで精一杯か。手を放しても倒れ込むまいとしがみつくように必死になっていた。
呼吸が荒くなり呼吸をする速度が速くなる。
イタズラに尿道の部分に優しく爪をたてグリリと先を潰し追い上げる。

ビシャリと粘液が当たる音と共に伊作がそのままズルズルと座り込んだ。

射精の余韻で脱力しへたれ込む伊作の腰の着物を託しあげさせる。
先ほどの壺、中身は軟膏で、伊作のうんちくで馬の油と他にもハゼノキの果実を時間をかけて蒸し圧したものだ。止血の軟膏にもなるがハゼノキの果実の脂肪は蝋燭や座薬として塗るものにもなると言っていたか。
たっぷりと三本の指にまくった軟膏を晒された尻の、つつつと割れ目を穴まで辿る。周りを揉み強張りを茶化すようになどり、同じように一度射精をして勢いの落ちたものに手をかける。
「…っ、お前、なっぁ」
敏感になっているせいかすぐにまた息が乱れ、掠れた言葉を吐く。
「優しくする、だから抱かせろ」
「ん、ぁ…!!」
以前にも一度だけ、学校外の、思いもがけずに取り乱していた伊作を抱いたことがある。酷く乱暴に抱いたと言うよりも自分も男を抱くのは初めてであったし相手も受けるのは初めてだった。あの時はお互いに至るとことろから血の匂いもさせていた。
「ッこの、バカ野郎…」
憎々しくへらず口を叩く余裕を残しているようだ。やわやわと周りを揉んでいたその中に中指と人差し指を、内壁に溶け出してきていた軟膏をなすりつけながら忍び込ませる。
床にしがみつき綺麗な指が爪を立てる
。敷かれていた御座に爪痕がつき、細かく規則正しく編まれた網目が傷つく。
浅い内側をこするように二本の指で溶かし徐々に指を入りきらせる。一点を探し出すように動かしていくと腹の方の上、グッと押すと指を飲み込む体がビクリと震えた。
そのポイントをみつけると後は前と後ろをひたすらに追い上げさせ、攻めた。
下肢の中心がまた頭を掲げてきた反応にに薄らと笑みを作る。

腰を持ち上げると態勢を崩した伊作が床につっぷすように腰だけをあげたような姿勢になる。体だけでなく強気だった態度もすでに溶けされるがままになっていた。
他人事のようだが、実をすれば自分自身も既にそんなに余裕があるわけではない。腰ひもを解き誇張したものを十分に溶かした伊作の中に指で入口を広げさせ押し入れさせる。
伊作の唇から洩れる苦しそうな声と、隙あらば閉じようとする器官に押し戻されそうになりながら。入りにくい節くれだった先端の部分をじっくりと沈めさせれば、後は呑み込むように付け根まで挿入された。きつ過ぎる締め付けが無くなり、血液が通い温かい内壁に包まれる。血液の循環を即すように波打つ中にゾクリとする。
「っ・・・ゆっくり動くから、少し楽にしろ」
体に覆いかぶさり囁くがに聞こえているのか聞こえていないのか。短い呼吸を繰り返し圧迫に耐えるように震えていた。自分がこれだけ入れるまでにきつかったのだから受け入れる側は相当に負担がかかっているのだろう。
一人で勝手に動かし突き上げてやりたい衝動にかかるが、これ以上の負担に嫌われたくはない。既に無理矢理に抱いてしまっていてその心配もないが。
せめて同じく快感を分かつことは出来るだろう。結合部からの粘着液のこすれる音と閉じたうち扉の向こう側から聞こえる雨音が、混ざる。負担を減らすためにと一度萎えかけていた伊作の下肢も後ろに合わせ擦っているうちに高さを取り戻し溢れてきた液が手を汚す。頃見合いを見図りながら時折、深い部分へと押しつけると一点で、締め付けがキツくなり鳥肌が立ち上がった。つい声が漏れる。
伊作を見れば汗で髪がまとった顔を真っ赤にし声にならぬ声を惚けたように我慢している。同じ個所へとギリギリまで引き上げ、深く深くつき立てると体を震わせ掌の伊作のものと内が大きく反応した。
後は、保っていた理性がプツリときたように止まらなかった。揺すられ揺すぶり、思うがままに動く。横向きにさせ片足を掲げ突く。既にどこか遠いような視線の、わずかにコチラを向いたその顔に愛おしさにも似た気持ち。
髪を掴み顔を寄せ勢いよく唇を重ね、歯と歯がぶつかった音がしたが気にせず貪った。腹のほうに白い粘液がぶちかかる。離れられぬほどの圧力に吸い込まれた。急速に痙攣し縮こまり、腰を止めずに絞めあげられながら一突き奥へと流し込んだ。

何度か体位を変えはだけ、脱ぎ半裸状態だった着衣を着なおす。言葉を交わさないまま黙々と汚された床や箪笥を片づけ立ちこもった様々な臭いを室外へと追い出させる。扉の外は雨はまだ降り続いてはいるが辺り暗い。火を灯した室内にある蝋燭の光が木漏れ日ていた。
「なあ、今のは私はどう捉えればいい」
俺の衣服は汚れたと言えば被害は少ないが、汗と体内から吐き出されたものにまみれた伊作の寝着は病人用の寝着に着替えるしかなかった。事務的な動きで汚れた衣服を畳みながらやっと、話しかけてきた。
「どう、おまえは捉えたってんだ」
我ながら卑怯な切り返しだ。
「暇つぶしか、吐け口か・・・私はそんな手頃な男か」
「お前がそうとするならそういうことにしかならんだろ」
気まずい空気の中を蝋燭の風に揺れる光が漂う。橙色のとろけた飴のような光に照らされる先ほどまで自分が喘がせていた顔をキレイだと余所に思う。細い髪はさながら飴細工のようだなどと。
黙って立ち上がりかけた伊作の肩を掴み顔を寄せ指で唇に触れ自分のものを重ねた。そっと離し頬に手を当てる。どう語ればいいか。
何とも言い訳がましいような、口にしてもどうなるかもわかならないことばかりが浮かび、腹から出せるセリフもみつからずそのまま先に部屋を後にした。伊作は何も言わず、戸口で振り返るときもそこにいた。